進化する車載システムアーキテクチャがフラッシュメモリの新たな可能性を生む

Author | 2023 年 8 月 2 日 | 全て, 自動車, 特徴

 

本記事は、車載ストレージに関する5回シリーズの第1回目です。この記事では、車載アーキテクチャがどのように進化しているのか、そしてその進化が今日のデータストレージソリューションにどのような影響を与えているのかを見ていきます。

新エネルギーや自動運転技術の開発、車内エンターテインメントシステムのアップグレード、ストリーミングエンターテインメント、コネクティビティ、SDV(Software Defined Vehicle―ソフトウェアを中心に作られた車)、フリート管理、全端末要件の変更など、カーエレクトロニクスがかつてない変化に直面していることは周知の通りです。こうした変化は、自動車の基本的な電子・電気(E/E)アーキテクチャに大きな影響を及ぼしています。このような課題により、自動車業界と半導体業界はかつてないほど緊密に協力関係を築いています

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現代の自動車には膨大な量のデータが流れ込む

自動運転システムにカメラ、超音波、LiDAR、レーダー技術が採用されるようになってからかなりの時間がたちました。これらのセンサーは自動車の環境を検出するために使用され、車の「エッジ」に大量のデータをもたらすようになりました。この生データは、自動車に正確な運転判断を提供するために処理される必要があります。今日の自動車は、バック画像表示、電子ミラー、サラウンドビュー、ドライバーモニタリングシステムなど、インフォテインメントシステムとこれらのセンサーとの間のリアルタイムインタラクションも可能にしています。また、先進運転支援システム(ADAS)によって運転にゆとりが生まれたドライバーと同乗者に対しては、例えばテスラのセントラルエンターテインメントシステムでAAA級ゲームを楽しむことができるなど、コックピット体験の重視という結果をもたらしています。こうした進化は、車両内のデータ伝送量、電子制御ユニット(ECU)の数、コンピューティングパワー、そしてストレージ需要の大幅な増加をもたらしました。そして多数のコンポーネントを統合するコストの上昇や、より多くのECUに対する検証作業の負担の重さから、自動車メーカーや車載ティア1サプライヤーは、最新の自動車の電子/電気(E/E)アーキテクチャの再設計を検討せざるを得なくなっているのです。(図表1)

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多数のコンポーネントの統合と、より多くの ECU での多大な検証作業に伴うコストの上昇により、自動車メーカーと Tier 1 サプライヤーは、最新の車両向けに電子/電気 (E/E) アーキテクチャを再設計する方法の検討を余儀なくされています。 (別紙1)

 

図 1: 現代の自動車は大量のデータを生成し、アーキテクチャの変化を推進しています

 

車載電子アーキテクチャにおける将来のストレージ需要

車載半導体は今後の半導体市場の成長を牽引する最も重要な原動力の一つですが、”NANDフラッシュストレージはどうなの?”と疑問に思う人がいます。 業界の専門家は、車載NANDフラッシュ市場が2023年の20億ドルから2028年には50億ドルに成長すると見積もっていますが、このような爆発的な成長を引き起こすきっかけは何だろうと懐疑的に考える人もいます。その答えは、実はこの記事の最初の段落、インテリジェントカーの様々なアプリケーションに暗示されています。しかし、この質問に対してより専門的で詳細な回答をするために、自動車の電子/電気(E/E)アーキテクチャをさらに詳しく見ていきましょう。

自動車のE/Eアーキテクチャは非常に複雑で、設計から検証、量産まで3~5年かかることもあります。企業によっても異なりますが、過去5年間で、ドメイン集中型アーキテクチャに移行する設計が増えています。(図表2)

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図 2: ドメイン集中型の自動車アーキテクチャにおけるストレージ需要。

 

ドメイン集中型アーキテクチャでは、多数のECUが1つのドメインコントローラに統合されます。各ドメインコントローラは、自動運転、コックピットエンターテイメント、電源制御、シャーシ制御など、車両内の特定の機能を担当します。これにより、ワイヤーハーネスの使用量の削減、サプライチェーン管理、検証の複雑性の簡素化、コスト削減、スペースと重量の解放が可能になります。車載NANDストレージにも大きな影響があり、従来よりも大容量で信頼性が高く、より高速で容易に統合できるストレージへの要求が高まっています。

ご存知のように、ストレージデバイスのNANDフラッシュは、小容量のSLCやMLCソリューションから3D TLCへと進化し、コントローラによるNANDフラッシュの管理はますます複雑になっています。特に、ストレージデバイスの信頼性を確保するためには、エラー訂正能力をさらに向上させる必要があり、コントローラのアルゴリズム設計と検証能力の強化が重要になります。これについては、今後の記事で詳しく説明していきますが、ここではまず、車載システム向けストレージデバイスのニーズと用途をさらに掘り下げていきましょう。

現在、1台の自動車には3~5台のストレージデバイスが必要です。年間8,000万台の自動車が販売されると仮定すると、車載用NANDストレージデバイスの販売台数は、最終的にノートパソコンのSSDの年間出荷台数を上回る可能性があります。両者に要求されるストレージの容量にはまだ大きな隔たりがありますが、アーキテクチャの移行とインテリジェントアプリケーションの成長は数年かけて行われるため、将来的にNANDフラッシュストレージにとって車載ストレージ市場が大きなチャンスとなることは間違いないと思われます。

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車載ストレージのアプリケーションを徹底分析

車載NAND型フラッシュストレージデバイスは、様々なシステムに利用されていますがその用途から大きく4つに分類できます。

 

テレマティクスコントロールユニット(TCU(Telematics Control Unit)、T-Box) (TCU、T-Box

テレマティクスとは、電気通信と情報科学を統合したものです。自動車のテレマティクスシステムは、ワイヤレスで自動車に接続するほぼすべてのものの中心的なハブになります。OTA(Over-the-Air)アップデート、eCALLなどの技術による事故発生時の迅速なリモート対応、フリート管理、リモート診断などが可能になります。テレマティクスシステムが5Gと統合されると、車両は路側機(RSUロードサイドユニット)だけでなく、他の車両、歩行者、ドライバーとも通信できるようになります(この通信機能はV2X(Vehicle-to-Everything)と呼ばれています)。さらに、環境や他の接続されたオブジェクトをよりよく制御することで、自動運転の信頼性と機能性をさらに高めることができます。現在、世界のTCU出荷台数は年間5,000万台を超え増加の一途をたどっています。そしてこれらのシステムに、比較的小さなストレージ容量の16GB未満のeMMCが採用されることが一般的です。

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コックピット・ドメイン・コントローラー(CDC(Cockpit Domain Controller)) (CDC

CDCと従来の車載インフォテインメント(IVI( in-vehicle infotainment))を区別するのに苦労している人が多いのではないでしょうか。CDCはドメイン集中型アーキテクチャのサブシステムで、その定義上ハードウェアシステムは、ダッシュボード、ヘッドアップディスプレイ(HUD)、音声認識、中央インフォテイメントシステムなど、コックピット内のすべての情報とエンターテイメント機能を統合する必要があり、同時に複数の仮想マシンとオペレーティングシステムとの互換性の提供が要求されます。現在、CDCシステムを搭載している車両は、生産車両全体の15%未満です。しかし、CDCと従来のIVIシステムをインフォテインメント領域で組み合わせると、車載用ストレージ市場全体で最大のアプリケーションとなり、車載用NANDビット需要の80%以上を占めています。CDCシステムには、車両のレベルや実装されるアプリケーションの豊富さに応じ、16~256GBの容量のeMMC、UFSまたはPCIe SSDが使用されています。

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先進運転支援システム・ドメイン・コントローラ(ADC(Advanced Driver-assistance System Domain Controller))

先進運転支援システム(ADAS)技術は、安全性、規制、ドライバーの受容性など多くの問題を抱えている中、爆発的とまではいきませんが着実に開発が進んでいます。これは近年最も議論されている技術トピックで、自動車産業における不可逆的なメガトレンドでもあります。現在、この分野で要求されるストレージはeMMCが主流ですが、データ転送速度の上昇に伴い、UFSストレージソリューションをベースにした設計に置き換わりつつあります。将来を展望すると、このADAS技術の発展により、ADCシステムが今後数年間、車載NANDストレージ分野で最も急成長することが予想されます。

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中央ゲートウェイ( Central Gateway)

中央ゲートウェイは、車両ネットワークのデータ交換ハブとして機能します。車両内の異なる通信プロトコル(LIN(Local Interconnect Network)、CAN (Controller Area Network)、FlexRay、イーサネットなど)を変換し、異なる機能ドメイン間でデータをルーティング(交換)します。物理的な分離を実現し、車両のネットワークセキュリティ機能も果たします。アプリケーションには、EDR(Event Data Recorder事故情報計測)、診断ルーティング・システム、フリート管理、ネットワークセキュリティ管理、OTAアップデート管理などがあり、時に、車載管理ドメインコントローラの機能を搭載することもあります。ストレージソリューションとしては現在eMMCが主流ですが、商用車の車両では大容量のPCIe SSDがよく使用されています。

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ファイソン・・・車載ストレージのリーディングプロバイダー

 

自動車技術が進化し、かつてないほどデータへの依存度が高まる中、車載Tier1サプライヤーや自動車メーカーはドメイン集中型アーキテクチャを導入しています。このアーキテクチャでサポートされるアプリケーションには、より大きく、より高速で、より信頼性の高いデータストレージソリューションが要求され、この分野は近い将来、大きな成長が見込まれています。

そのため、ファイソンは車載ストレージソリューションの研究開発に多大な投資を続けています。車載用eMMCコントローラICの世界最大のサプライヤーとしてファイソンは車載用機能安全開発プロセス認証ISO 26262を取得し、更に、独立系NANDフラッシュコントローラーサプライヤーとして世界で初めてAutomotive SPICE (ASPICE) CL3認証を取得しました。ファイソンは車載ストレージ市場におけるリーダーとしての地位を確保するため、大手NANDフラッシュメーカーや自動車業界のパートナーとの技術・ビジネス協力に取り組んでいます。 機能安全開発プロセス認証、ISO 26262、しかしまたなりました Automotive SPICE (ASPICE) CL3 認証を取得した世界初の独立系 NAND フラッシュ コントローラー サプライヤー同社は、自動車用ストレージ市場におけるリーダー的地位を確保するために、主要な NAND フラッシュ メーカーおよび自動車業界のパートナーと技術的およびビジネス上のコラボレーションに取り組んできました。

さて、今回は車載技術の進化がストレージソリューションの需要をどのように牽引しているのかを探りましたが、次回はインターフェイスがeMMCからUFSへ、さらには将来のPCIe BGA SSDへとどのように移行していくのかをご紹介します。次回配信の車載ストレージシリーズ第2弾の記事もお見逃しなく。

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