車載システムで高まるPCIe SSDの重要性

Author | 2023 年 9 月 13 日 | 全て, 自動車, 特徴

本記事は、車載ストレージに関する5回シリーズの第3回目です。今回は、今日の自動車におけるPCIe SSDの役割と、PCIeの重要性が高まってきている理由について考えてみましょう。

前回の記事では、車載システムの組み込みストレージソリューションとしてのeMMCとUFSの役割と、UFSが低速なeMMCに徐々に取って代わりつつあることを説明しました。PCIeは高速のコンピュータ拡張バス規格で、PCやサーバーのシステム、更にはプロセッサーとグラフィックカード、SSD、NIC(ネットワークインターフェースコントローラ)などの主要コンポーネント間の信号伝達に広く使用されています。そしてPCIe SSDは将来、大規模な自動車システムに採用されることが確実と言われています。この記事では、車載アプリケーションにおけるPCIeの発展について詳しく説明します。

 

 

車載システムにおけるPCIe SSDの始まり

より強力なコックピットシステムをサポートするため、テスラ社は2021年末までに、インテルAtom A3950シリーズをベースとするプロセッサーをAMD Ryzenプロセッサーに順次置き換え全車種に配備しました。これによりYouTubeやNetflixなどの動画ストリーミングプラットフォームを改善し、よりスムーズなプラウザの操作とより高速なタッチスクリーン体験を実現したのです。その結果ユーザーはテスラのゲームシステムである「テスラアーケード」に加え、PCゲーム最大の配信スタンドである「Steamゲーム」もプレイできるようになりました。

この前例のない車内体験の実現のためには強力なプロセッサーに加え、高速読み書きが可能な大容量のPCIe SSDが必要でした。テスラは256GBのPCIe 3.0 SSDを採用し、車載ストレージソリューションとしてPCIe SSDを幅広く使用する初の大手自動車メーカーとなったのです。ストレージインターフェースとしてPCIeをサポートするSoCを採用したことでPCIe SSDの搭載が可能となり、より優れたユーザー体験の提供が可能になりました。車載ストレージ技術の将来の発展にはPCIe SSDの採用の他、進化する車載電子アーキテクチャなど他の重要な要素も必要となります。

 

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図 1: 最新の自動車システムには、ユーザー エクスペリエンスを向上させる豊富なアプリケーションが備わっています

 

車載サーバーがPCIe SSDの需要を開拓する

電子制御ユニット(ECU)の統合については、以前の記事でも取り上げました。デジタル化と電動化が進むにつれて自動車が必要とするECUの数はますます増加し、設計コスト、サプライチェーン管理、スペースと重量、テストと検証、製造リソースなどへの配慮のために、「分散型の電気/電子(E/E)アーキテクチャ」から「集中型ドメインアーキテクチャ 」に移行が進んでいます。 先進運転支援システム(ADAS)、パワートレイン、インフォテインメントなどの異なる機能を持つタスクは、異なるドメインコントローラが担当してきました。多数の類似したECUを組み合わせでできたこれらのドメインコントローラは、本連載の第1回で説明したものと同様のアーキテクチャにより演算やデータ保存を行っています。

 

 

電子制御ユニット(ECU)の統合については、以前の記事でも取り上げました。デジタル化と電動化が進むにつれて自動車が必要とするECUの数はますます増加し、設計コスト、サプライチェーン管理、スペースと重量、テストと検証、製造リソースなどへの配慮のために、「分散型の電気/電子(E/E)アーキテクチャ」から「集中型ドメインアーキテクチャ 」に移行が進んでいます。 先進運転支援システム(ADAS)、パワートレイン、インフォテインメントなどの異なる機能を持つタスクは、異なるドメインコントローラが担当してきました。多数の類似したECUを組み合わせでできたこれらのドメインコントローラは、本連載の第1回で説明したものと同様のアーキテクチャにより演算やデータ保存を行っています。

しかし、新エネルギーや自律走行技術の急速な進化に伴い、自動車E/Eアーキテクチャは今さまざまな課題に直面しています。先進的な自律走行システムには10~20個の端末センサーが含まれますが、驚くべきことに車の周辺に配置されたこれアーキテクチャはそれぞれの独立したワイヤーハーネスを通じてADASドメインコントローラに接続されているのです。車両全体に多数のワイヤーハーネスが使われるためレイアウトが複雑になり、ドメインコントローラがサポートしなければならない入力と出力(I/O)の数が増加します。その対策として近年では「集中型ゾーンアーキテクチャ」という概念が現実味を帯びてきているのです。 「集中型ゾーンアーキテクチャ」と「従来型アーキテクチャ」の違いは、ゾーンコントローラと中央コンピュータの導入によりもたらされました。まず、ゾーンコントローラは以下のようなエッジのタスクを処理します。

      • 車両のローカル領域への電力供給と分配
      • 各ゾーンのローカルECU間の通信処理
      • データの事前計算処理、集約、中央計算ユニットへの送信

中央演算装置は、特にADASとインフォテインメントシステムに関する高度な演算と機能を担当し、信頼性が高く効率的な処理能力を持つサーバーとして機能します。同時に、より高速な転送速度と大きなストレージ容量とエンタープライズクラスのストレージ機能を必要とするため、サーバーシステムで長らく使用されてきたPCIe SSDが注目されるようになりました。

 

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図 2: 自動車の E/E アーキテクチャの進化により、新たなストレージ要件が生じる

 

エンタープライズクラスのPCIe SSDが急速に進化する自動車市場に対応

エンタープライズクラスのSSDストレージソリューションと、eMMC/UFSやコンシューマーグレードのSSDとの間には多くの違いがあります。ここでは、エンタープライズ SSDを紹介し、これが車載システムにとっていかに重要であるかを説明します。

 

QoS(サービス品質)と一貫性:

これは、SSD の待ち時間(レイテンシ)と転送速度の安定性を示す指標です。エンタープライズグレードのSSDは、パフォーマンスを高めるよりも予見可能なパフォーマンスの実現を優先します。自動車内で大量の重要なデータを転送する過程で、予期せぬ遅延は許されないからです。

 

SR-IOV(Single Root I/O VirtualizationシングルルートI/O仮想化):

この機能により、仮想マシンはハイパーバイザー(コンピュータを仮想化するためのソフトウェア)を介さずにPCIe SSD内の物理ファンクション(PF)と仮想ファンクション(VF)を通じてSSD内の対応するネームスペースに直接アクセスできるようになり、I/O操作と個々のセキュリティ設定の独立性が保証されます。高度なコックピットシステムでは、AndroidやLinuxオペレーティングシステム、AUTOSAR(Automotive Open System Architecture)、リアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)などの複数のオペレーティングシステムがともに存在し、それぞれがエンターテインメントシステム、ドライバーモニタリングシステム(DMS)、ヘッドアップディスプレイ(HUD)、安全システム、基本的なADAS機能などを個別に担当する場合がありますが、SR-IOV を有効にすることで、さまざまなデータを分離して保護し、CPU のワークロードを最小限に抑えることができます。

 

デュアルポート/マルチポート:

エンタープライズ・データセンター環境では、デュアルポートがPCIe SSDの重要な機能となっています。これによりデータの冗長性が保護されるだけでなく、異なるホストが同時に一つのSSDからデータにアクセスできるためデータの共有が可能になります。集中コンピューティングを採用した車載システムでは、現在、単一のシステムオンチップ(SoC)が異なるドメインのすべてのタスクを処理するのに十分な性能を持っていないため、中央コンピュータは複数のSoCで構成されています。デュアルポート/マルチポート機能を備えたPCIe SSDは、複数のSoCがデータを共有するための共有ストレージとして機能し、PCIeスイッチのコストを節約し、冗長レーン設計によって信頼性を向上させています。

 

上記3点に加え、従来のコンシューマー向けSSDや組み込みストレージソリューションを差別化する指標や技術として、耐久性グループ、電力損失保護(PLP-Power Loss Protection)、準備完了までの時間(TTR-Time To Ready)、多くのセキュリティ機能などがあります。これらの機能は、SSDコントローラーの設計とファームウェアの開発に大きく依存しています。JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council-半導体素子や半導体製品に関連する技術の標準化を推進するアメリカの業界団体)は、2022年12月にJESD312 Automotive Solid State Drive (SSD) Device Standard V1.0をリリースし、車載用SSDの標準と仕様を定義しました。このことは車載市場におけるPCIe SSDの応用が業界で真剣に受けとめられていることを示しています。ファイソンはストレージ技術のリーディングカンパニーとして、この規格が発表される2年前から車載用PCIe SSD技術に投資してきました。

 

 

車載ストレージ技術の進化をリードするファイソン

車載アプリケーションでは、車載システム内のデータ転送と計算の需要が急速に高まっています。自動車メーカーやTier 1サプライヤーがPCIeインターフェイスをサポートするSoCを段階的に採用していることに加え、将来車載で必要とされるシステムは、エンタープライズやデータセンター環境で使用されている既存のPCIe SSDソリューションと密接な関係があります。車載システムにおけるPCIe SSDの重要性は今後も高まることが予想されています。

先に述べたように、ファイソンは2020年以降、車載用PCIe Gen4 SSDソリューションに多額の投資をしてきました。また、NANDフラッシュメーカー、車載メーカー、Tier1サプライヤー、SoCサプライヤーと深い技術提携を行い、急速に進化する車載市場の需要に応えています。来年には、従来の車載用PCIe Gen4 SSDに加え、最先端の車載システムのニーズに応えるべく様々な先進技術を搭載したエンタープライズクラスの車載用PCIe Gen4 SSDを提供していく予定です。

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