コックピットのスマート化に伴い、eMMCからUFSへと進化する車載ストレージのニーズ

Author | 2023 年 8 月 23 日 | 全て, 自動車, 特徴

この記事は、車載ストレージに関する5回シリーズの第2回目です。今回は、最新の自動車におけるNANDストレージの主な用途と、情報処理機能をもった自動車のコックピットでなぜこれほど多くのストレージが必要とされるようになってきたのかについて見ていきます。

前回の記事で述べたように、自動車におけるNANDフラッシュストレージは、主にテレマティクスコントロールユニット、インフォテインメントシステム、先進運転支援システム(ADAS) 、中央ゲートウェイの4つの主要分野で使用されています。先進運転支援システムのためのNANDフラッシュメモリの需要も大きく伸びていますが、今後5年間のNANDフラッシュストレージの需要の中心 は依然としてインフォテインメントシステムであり、車載用NANDストレージ総需要の80%を占めています。本稿ではこのシステムのアプリケーションとストレージ技術の今後の動向について分析していきます。

 

多くのインテリジェンスとエンターテイメントが搭載される自動車のコックピット

従来、自動車では、パワー(馬力)、エンジン、スピード、内装材、スチールパネルの強度が重視されていました。しかし、今日のコンシューマーは、大型スクリーンのサイズが12インチなのか17インチなのか、画質や操作のスムーズさはどうか、アンドロイドオートやアップルカープレイ、ストリーミングメディアに対応しているのか、OTA(Over The Air 無線によるソフトウエア更新)、AR-HUD(Augmented Reality Head-up Display 拡張現実型ヘッドアップディスプレイ)、音声認識などの機能に対応しているのか、360度サラウンドビューやバックカメラ表示は直感的に操作できるか等に関心を持っています。

先進運転技術の急速な発展に伴い、人々が車内のエンターテイメントアプリケーションに費やす時間が増えています。例えば、米国のテスラモーターズが設計した車内システムではAAAゲーム(巨額の開発費を投じて作られた人気定番ゲーム)をプレイすることができ、中国の小鵬(シャオペン)モーターズのAIアシスタント「シャオP」では音声コマンドを通じてドライバーと対話することができます。今年初めには、中国BYDはNVIDIAと協力して、NVIDIA GeForce NOW™クラウドゲームサービスを導入すると発表しました。

コックピットにおけるアプリケーションは、より良い乗り心地の体験を人々に提供することを目指して急速な成長を遂げています。その結果、NANDストレージデバイスの性能と容量を含むハードウェアシステムに対する需要が急速に押し上げられることになりました(図1)。それでは次にコックピットのシステムにおけるNANDフラッシュストレージデバイスの進化を詳しく見てみましょう。

(図1) 情報処理機能を持ったコックピットの進化が車載ストレージの需要を加速しています。

 

車載ストレージにおけるUFS規格の人気の高まり

コックピットシステムの性能はシステムのSoC(System on a Chip)に依存します。過去には、TI(テキサスインスツルメンツ)、NXP、ルネサスエレクトロニクス、STマイクロエレクトロニクスといった主要なIDM(Integrated Device Manufacturer 自社内で回路設計から製造工場、販売までの全ての設備を持つ垂直統合型のデバイスメーカー)企業が、車載分野への長期的な取り組みにより確立したビジネスチャネルを背景に、車載インフォテインメントSoCの主要サプライヤーの地位を占めていました。この成熟した組み込みストレージソリューションが、PCやサーバー以外の市場のさまざまな端末機器に採用されていったのです。

しかし市場の急速な変化に伴い、この6~7年の間にスマートフォン市場での経験と製品を生かしてクアルコム、メディアテック、サムスンといった企業が、コストと性能の優位性を活かしてこの市場に参入してきました。もともとスマートフォンやタブレット向けに設計された彼らのSoCは、より高度なプロセスと強力な性能で本家IDM企業から市場シェアを奪いつつあります。これらのモバイルSoCは急速に変化するコンシューマー市場で熾烈な競争を繰り広げており、そのチップセットはストレージデバイスの高速規格であるUFS(ユニバーサルフラッシュストレージ)へとシフトしています。このため、車載コックピットシステムでもUFSの需要が高まっていて、現在、車載用ストレージ市場ではUFSは売上高でeMMCを上回り、車載アプリケーションの主流ストレージ技術となっています(図表1)。

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(図表1)UFS規格が、車載システムで最も求められるストレージソリューションになっています(売上高ベース)。

 

 

世の中でeMMCではなくUFSが採用されるようになった背景として、SoCやアプリケーションの変化に加えて、容量と性能(転送速度)という、より根本的な2つの理由が考えられます。

第一の理由は供給と製品のセグメンテーションの整合性です。eMMCは、世界の市場ではストレージ容量が比較的小さいローエンドのスマートフォン、スマートウォッチ、スマートテレビ、セットトップボックスで一般的に使用されています。一方UFSは、ミッドレンジからハイエンドのスマートフォンや、VRやARなどのヘッドマウントデバイスで広く使用されており、容量は128GBから512GBに及びます。自動車のコックピットやインフォテインメントシステムで大容量ストレージの需要が高まるにつれNANDフラッシュメモリのサプライヤーは、大容量のeMMCではなく大容量のUFSソリューションを提供することで供給の継続性を確保しようとしています。

第二の理由は性能です。電源を入れてから最初のコマンドを受信するまでにかかる時間はUFSが約60msであるのに対し、eMMCは最大300msかかる場合があります。さらに転送速度にも大きな違いがあり、eMMC 5.1規格はシーケンシャルリードで最大320MB/sの速度でデータを読み込むのに対し、UFS 3.1規格は2000MB/sに近い速度でデータを読み込めるため、コックピットOSの起動時間や各種アプリケーション、マルチメディアのロード時間を大幅に短縮できます(図表2)。さらに、書き込み速度の向上は、OTA、アプリ、地図のダウンロード速度の高速化にも貢献しユーザーにより良い快適な体験を提供します。現在ハイエンドのスマートフォンではUFS 4.0規格が採用されていますが、自動車メーカーは車載システムの開発、検証、生産サイクルへの配慮からまだUFS 4.0規格は導入していません。とはいえ将来的にUFS 4.0が導入されれば、さらに優れた運転体験と同乗者体験がもたらされることが期待できます。

(図表2)組み込みストレージソリューションの理想的なシーケンシャルリード性能の比較

 

ファイソン 車載ストレージのリーディング・プロバイダー

コックピットのインフォテインメントシステムで提供されるユーザー体験は、コンシューマーが自動車購入を検討する際の重要な指標となっています。自動車メーカーは、より洗練されたナビゲーションシステム、音声認識と対話システム、ヘッドアップディスプレイ、ゲームプラットフォーム、360度サラウンドビュー、ストリーミングメディアへの対応など様々な新機能を導入しています。また自動車メーカーは、OTAを通じてさまざまな機能やアプリケーションをダウンロードにより提供することでソフトウェアサービスによる収益化を目指しています。このような端末アプリケーションの需要増はシステムに対するハードウェアの要求レベルを高め、エンターテインメントやコックピットシステムにおいて、UFSは徐々にeMMCに取って代わり車載用NANDフラッシュストレージデバイスの主流技術となっています。

ファイソンは車載用eMMCコントローラの世界最大のサプライヤーであり、車載用ストレージ市場向けの製品開発において10年以上の経験を有しています。そしてファイソンは市場の需要に応えてUFS 2.1/UFS 3.1、64GB~512GBの容量を含む車載用UFSソリューションを既に発表しています。ファイソンのすべてのUFSソリューションはAEC-Q100のテスト済みで、IATF-16949規格に準拠して製造されています。製品ポートフォリオに加え、ファイソンの車載用UFSソリューションは複数の大手コックピット/インフォテインメントSoCサプライヤーのApproved Vendor List (AVL)に登録されており、自動車メーカーやTier1システムインテグレーターの車載インフォテインメントシステム開発加速を支援しています。

今回は車載用コックピットやインフォテインメントシステムの変化が、車載用UFSの需要を促進していることを説明させていただきました。次回は、車載用ストレージで最も急速に成長しているストレージソリューションであるPCIe SSDが車載システムのエンジニアリング上の諸問題にどのように対処しているかを紹介します。車載ストレージシリーズ第3弾の記事もお見逃しなく。

 

 

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